ホームレス農園
まずは本の表紙を見て欲しい。
『ホームレス農園』という題とは似つかわない、美しい女性の写真である。
写真に惹かれ本を手に取ったという紳士も多いだろう。僕も多少はその一人だ。
しかし読み進めるにつれ、著者の印象は一変する。もうね、心が農家。そして武士。北海道を切り拓いた屯田兵、ブラジルに渡った開拓民だ。
農家の人手不足とホームレスの仕事不足。
これこそミスマッチであり、「農業とホームレス」の掛け合わせに思いを馳せた事ぐらいは僕だってある。
しかしなかなか行動は出来ない。思いを馳せるのと行動するのでは雲泥の差がある。
何が著者をここまで動かしたのか。これは起業の本であると同時に、一人の女性の仕事観について書かれた本である。
実現不可能と思われる課題と日々戦いながらもなんとなく自然体。これが今の企業家の理想像なのかもしれない。
丹精込めて育てた自慢の作物が、結局はその他大勢と一緒にされて箱詰め袋詰めにされ、しかも安価で売りさばかれてしまうのだ。これは生産者にとって悲しいし、悔しいし、空しいことだ。(P62)
農産物の流通が抱える課題について。
農業に付加価値をつけるべし、と叫ばれる中、良品も粗悪品も一緒くたにされて売られる現実の課題がある。
ミスマッチを排し良い物を届けたい農家と良い物を食べたい消費者、それを繋ぎたいという思いが著者の根底にある。
生産者は自分が作ったものが誰の食卓に届いたのか、おいしいと喜んでもらえたかがわからない。(p63)
農家だって人間で、仕事を人に認めて欲しいし喜んで欲しい。
農家と食卓、それを繋ぐものがお金でしかないなら大量生産や経費削減へ流れいき、結果食品の不祥事が起こるのも当然かと思う。
そこで著者は現在の市場に乗せない流通の仕組みを作るようになる。
「そうだ!仕事を探しているホームレスの人たちがいるじゃないか!」
こう思い至ったとき、私は「うわっ、すごいパーフェクトプランを思いついたかも!農業界にも、日本の雇用にもプラスになるし、パーフェクトにいいじゃない!?」と気分が高揚した。(p74)
思いつく瞬間は誰でもあると思う。
ただ高揚も一瞬でその後困難さが次から次へと想起され、実現可能性は低そうだという判断を下され、忘れ去られていく。
そしてそのアイデアで少しでも人がビジネスチャンス得ようものなら自分も考えていたのだと悔しがる(僕だ)。
アイデアと行動には雲泥の差がある。
そもそも高揚感と呼ばれるものも人によってレベルが違うのかもしれない。自分にも動かざるを得ない高揚感が訪れる事を願う。
仕事には、「自分が自分でいられる仕事」「人にありがとうと感謝される仕事」「経済的に成り立つ仕事」、この「3つのものさし」があり、これをすべて満たす仕事であることが、「仕事が人生の一部になる生き方が出来る」と大学時代の友人に教わった。(p186)
大学時代の友人、良いことを言う。
僕の友人にはこんな良いことをいう奴はいなかった。しっかりしてよ、僕の友人たち。
簡単にすれば「自己表現」「他者貢献」「経済的独立」といった事になろうか。経済的に成り立つためには、あとは我慢しなければならないという風潮はまだ根強い。
仕事を生活の一部に取り戻すことが必要だと思う。
文章も経営もあくまで愚直である。ひどくまっとうな内容でアクロバティックな内容は何一つ書いてない。著者の写真だけで読み始めると途中で飽きるかもしれない。
しかしまっとうな事を臆さずに語り実行していける、武士のような人がいることに心が弾まずにはいられない。