銀翼のイカロス
昨年の ドラマ『半沢直樹』は良かった。何年かぶりにしっかりドラマを見た気がする。
多くのサラリーマン、特に金融関係者はあのドラマで溜飲を下げたはずだ。
本著はサラリーマン冒険譚、半沢直樹シリーズの第4弾。ドラマを見ていたから登場人物の造形がしやすくて助かる。
腐った組織、こずるい権力に臆することなく切り込む半沢直樹。それは全サラリーマン憧れの姿。
多くは気付いている、こんなの間違っていると。しかし「まあ今回はしょうがないや」とか「自分一人が気を吐いても」だとかいった小さな悪意の積み重ね、小さな諦めの積み重ねが組織を間違った方向に推し進めてしまうのである。
ハレーションを起こす半沢のような存在は短期的に見れば組織からすれば鬱陶しい。しかし組織の正常化、多様性を担保するためには必要な存在である。各人が小さい修正を行おうとすること、それ以外にボトルアップで組織を改善することはできない。
しかし、そこまで分かっていても尚。「それは自分のすることではない」と思ってしまうのがサラリーマン。そしてその積み重ねが、以下省略。
その分半沢は凄いのである。しかし恵まれている点もある。
それは敵が多いが強力な味方も多いことである。直属の上司、直属の部下、強力にアシストをしてくれる有力な同期、そして組織のトップたる頭取。
それは勿論半沢のこれまでの頑張りによるところである。しかし、組織の中で正論を振りかざし、戦ったものの半沢になれなかった実在の人物がいるはずであることも気にかけておきたい。
小説の登場人物と実際のサラリーマンを比べる事は難しいしバカらしいのかもしれない。しかし、こんな言い方怒られるかもしれないが小説同様会社の多くはフィクションだと思う。
そのフィクションの中で戦い、ある者は辛うじて勝ち、ある者は気持良いほどの負けを喫している。
そんな多くの成功や失敗の中で、水戸黄門的に気持ち良く収まるストーリーの一つ、これが半沢直樹だ。割り切れない日常の中で、さっぱりとした仕事を夢見て、次回作にも期待するのである。
金融物の小説はけっこう好き。
本シリーズが好きな方は有名どころだが高杉良の『金融腐蝕列島』、真山仁『ハゲタカ』シリーズも是非。前者は銀行内の組織のドロドロがもっと分かるし、後者は金融と人間の乖離、しかしそれでもお金が要る、という葛藤を感じられるはず。