レシーバー同好会

攻めろ戦えとハッパをかけられる事が多いが、本当は守るほうが好き。スマッシュやアタックよりレシーブにゾクゾクするあなた、気が合うかも知れません。ちなみにスポーツはしていない。

アイネクライネナハトムジーク

 

アイネクライネナハトムジーク

アイネクライネナハトムジーク

 

 読み始めたら一気に読み終えた方がいい。

短編集であるが世界が共有され、時系列を混ぜ混ぜしながらも登場人物や事件がパラレルに進むというあれ。最後の書き下ろし除いて単体でも十分楽しめるが、繋がりが分かれば分かるほど面白くなる。

僕も全ての繋がりを理解している訳ではないと思うと悔しい思いもあるが、単体で読める上に丁寧に集中して読めば読むほどボーナスがある、つまり思い入れが強いほど面白くなるようにできている。よくできている。

 

巻末の初出を見ると一編目から五編目が世に出るまでに実に7年間の間隔がある。一体どうやって作品を作っているのだろうか、と不思議に思う。

どうやって書いているか想像してみる。伊坂さんはいくつかの作品のパラレルワールドを管理している。そして思いついた時にある一つのワールドを進めてみる。更にある程度まとまったらまとめて書籍にする。

この手法なら伊坂さんの小説世界は常に未完である可能性を持っている。その世界に触れた事のある読者からすると「あの世界が新たに動き出した」といった喜びがある。

 しかし7年あれば伊坂さんにも様々な変化もあるだろう。そんな中同じような空気感を描き続けるのは並大抵でなない。小説に描かれていない部分で世界観を作り込んでいるからだろう思わざるを得ない。当然のことだが僕たちが見ているのは作家の頭の氷山の一角である。おそるべし。

 

全六編からなるがどれも人間のおかしみと悲しみで溢れている。どれが一番好み、と言われると「ドクメンタ」が一番好み。 

不確かなことに満ちているこの世界で、間違いなく真実と呼べる、確かなことが一つだけある。

僕の妻は、僕とは違い、こまめに記帳をしている。(p121)

確かなことがそれかよ!って感じである。しかしこんな些細な真実が妻に出て行かれた男にとっては最大級の希望に変わる。

 

些細なことから廻り回って運命が変わる、そんなバタフライエフェクトなお話を描くのが伊坂作品の特徴の一つである。更にその結果がどうなるかについてはそんなに重要視しないのも伊坂作品の特徴の一つだと思う。

人間万事塞翁が馬、だとか、禍福は糾える縄の如し、という諦念と希望。大丈夫、真面目にしてればいい事あるかもよ、たとえいい事なくってもどう転んでも人生っておかしいよね、ということを語りかけてくる。

小さな幸せがあれば大体おもしろおかしく生きていけるし、もっと言えば小さな幸せが幸せの正体だ、と思える。 読んでる間、つかの間怒りを忘れます。