レシーバー同好会

攻めろ戦えとハッパをかけられる事が多いが、本当は守るほうが好き。スマッシュやアタックよりレシーブにゾクゾクするあなた、気が合うかも知れません。ちなみにスポーツはしていない。

ダイヤモンドより平和がほしい

 

ダイヤモンドより平和がほしい―子ども兵士・ムリアの告白

ダイヤモンドより平和がほしい―子ども兵士・ムリアの告白

 

シリアで 亡くなられた後藤健二さんの著。

 

後藤さんが何を見、何を伝えたくて命懸けで紛争地帯に行っていたのか知りたいと思い手に取った。

そしてその伝えたい事を知る事が、伝える仕事をしてきた人への追悼にもなると思う。

 

手に取ったもう一つの理由は後藤さんに関する情報が乱れ飛んでいるからである。

情報が錯綜しており、何を信じて良いか分からない。このままでは一番多く目についた情報を信じてしまうかもしれない。

著書を読む事で、いくらかでも直接人となりを知る事が出来ればと思った。

 

更に言えば分かったような口で人の事(特に今回は亡くなった方だ)を語る事が申し訳ないがどうにも我慢できない。

ただどうにも我慢できないという意見を持つためにもいくらか後藤さんの事を知っておかねばならぬ気がして、せめて一冊くらい著書を読んでおこうと思った訳である。

 

この本はシオラレオネの少年兵を中心にした戦争で傷ついた人々の物語である。

主人公となる少年は十代前半にして組織の司令官になり人を殺した経験もあるが、今では脱走して保護されている。

 

さらっとインタビューしているが、僕ならアフリカ人で、人を殺しており、麻薬の後遺症と闘う、理解の外にある少年と話す事が出来るだろうか?

正直怖くて出来れば関わりたくない。でも後藤さんは自ら話を聞きに行く。

お金目当てで危険な所に勝手に行ったという批判を見た事があるが、これだけ度胸あがって頭良かったらもっと安全で簡単に稼ぐ方法はあると思う。やはり危地に赴くだけの使命感のようなものを持っていた人なんだろうと思う。

 

以下、本文より引用し感想。

 

 

でも、子どもたちがある日とつぜん兵士になるわけがない、何かのきっかけがあるはずだと思っていました。(p25)

この文章の前で後藤さんは被害者の話を聞き、兵士は狂っていると漏らしている。

ただそこで終わるのではなく、兵士にも事情があるはずだと理解しようとする。ジャーナリストとしては当然の考え方なのかもしれないが、一方に肩入れせずもう一方にも思いを巡らす公平さとともに、狂ったものでさえ理解したいという強い執念を感じます。

 

「カミソリで切って、そこに麻薬をうめこむんだ。うめこんでぬい合わせる。麻薬を入れられると、とても正気じゃいられない。殺したいと思った相手をすべて撃ち殺してしまうんだ。」(p43)

少年兵の告白。

被害者である少年兵でさえ加害者である。

後藤さんが書かなければ、この事実を知る事は無く、単純に少年兵を悪と決め付けている事だろう。日本まで中々聞こえてこない、こういった事を伝えたかったのだろう。

 

「彼らを許さなきゃならない。でも、絶対に忘れることはできない。」(p81)

少年兵に腕を斬り落とさた方の言葉。

悔しいだろうに、憎いだろうに、少年兵も被害者であり、平和のためには許さなければならないと自らに言い聞かせている。

どこかで連鎖を断たねば平和は来ない。それを自分がするという決意。苦しいけど尊い。

後藤さんの言葉ではないが、きっと後藤さんも同じように考えるべきだと思ってこの言葉を載せたんだと思う。

今回の殺害事件で「後藤さんのためにテロリストを許さない」という考え方は常識的で受け取りやすい。

しかしこの文章を残した「後藤さんのため」というのならば「後藤さんのためにテロリストを許す」というのが意に沿うのではないか。

「許す」のが難しい事は分かる。でも許そうとしなければ、この言葉を伝えた後藤さんの命懸けの仕事は報われないのではないだろうか。

 

「その人がぼくの家族を殺したとしても、ぼくは許す。なぜなら、まだ戦争は続いていて、だれの家族だって殺されるかもしれないからだ…。」(p89)

 これは戦争で被害を受けた人について、元少年兵が語ったもの。

元少年兵は確かに人を殺したが、自分の意思によるものではなかった。

その事を自分で知っているため、戦争で自分の家族が殺されたとしてもその殺した人を責めてはいけないと考えている。

人を殺した自分と、自分の両親を殺された事実を納得するためにはこう考えるしかないのか。心が麻痺していきそうだ。

 

このまま貧しい生活が続けば、戦争が終わった時に抱いた未来への期待は失望へと変わって行き、しだいに貧しい生活への不満が生まれてきます。そうした不満がまた戦争へとつながっていくのです。(p104)

後藤さんによるあとがきより。

後藤さんは戦争の当事者を一方的に非難しない。

社会への不満の影響があるとしている。目の前の出来事だけを見るのではなく、感情に流されず、長期的に、複眼的に見る事。このジャーナリストは著書を通して訴え続けているように思う。

 

 

べらべらと長く書いてしまった。

後藤さんが命を賭して伝えたかった情報は見ず知らずのおっさんにここまでいろいろ考えさせています。

直接話をされた方や感受性の強い子供達にはもっと伝わっているはずです。有意義な仕事をありがとうございました。

ご冥福をお祈りいたします。